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『現代女流川柳鑑賞事典』 (5) 田口麦彦著 三省堂 2006
この事典には126人の女流川柳家の句が集められている。

編集は、作家名あいうえお順。各作家の代表句及び20句。略歴。出典。作者からのメッセージ。
081
◆ 成田 順子 1944青森県 青森県川柳社同人
子離れすざくっとキャベツ割るように
川柳は私にとって生きる糧です。私の怠惰な心に渇をいれてくれるものと思っております。
生きている証としてこれからも川柳を続けてゆくつもりです。
短所だけ似た子を思う血を思う
茶漬けサラサラ私は日本人でした
天国の郵便番号知りませんか
パズル解くまでは新鮮だった君
乾杯の好きな男の赤い鼻
082
◆ 西 恵美子 1950宮城県 全日本川柳協会常任理事
抱かれて種を明かしてしまうなり
川柳は自分の思いを暴露する唯一の手段、言わば一度きりのステージのようなものである。
今限りのヒロインとしてステージに立ち、秘密を少しずつ解き明かす。
今しかない時間。秘密が多ければ多いほど、奥深いステージ・・・・川柳が吐けそうである。
花おぼろ赦されるためだけに咲く
宝石箱には糸屑がいっぱい
秘密ばかり溜まる二番目の引き出
狂っても光るしかない ほたる
083
◆ 西口 いわゑ 1927兵庫県 川柳塔社同人
パッチワークの恋のかけらを継ぐように
どんな時も、川柳という扉を開けるとそこは万華鏡であり、何者も介入出来ない私ひとりの世界、
そこで喜怒哀楽のドラマが展開していくのである。
グラスの中の戯れなのだこの浮世
プライドという厄介者が妥協せず
チョコレートに女心を遊ばせる
幻の宴のような恋だった
菜の花にふんわり抱かれ眠りたし
憧れの星を掴んでうろたえる
084
◆ 西出 楓楽 1938京都市 全日本川柳協会常任理事
身のうちの花瓶に花のない日なり
平凡な見合い結婚をし、一緒に暮らした義母が”川柳いのち”の人であったという、運命の神の味な計らいに感謝している。
春の森笑い上手で聞き上手
こひびとと書くとしんそこ溺れそう
花を買う男に油断してしまう
目尻からおんなの秋は深くなる
085
◆ 西來 にわ 1930長野県 全日本川柳協会理事
浅間山吹雪へ母の下駄の音
川上三太郎先生は生涯川柳の旅を続けられていた。不肖の弟子私もまた旅を楽しんでいる。
旅つづくわたしへ花の道がある
永平寺瓦へちちははを刻む
透ける陽とハーモニー若みどりを駆ける
086
◆ 似多見 千絵 1952新潟県 宮城県芸術協会会員
春だから真っ直ぐ進む花の道
数学が好きで国語が嫌いだった私。母が川柳を楽しんでいても、まるで興味のなかった私。そんな私がなぜ・・・・。
十七音の中に、喜びや悲しみ、美しさや醜さ、私のすべてを出し尽くすまで、
川柳という世界に、どっぷりと漬かり、自分自身を見つめながら生きていきたいと思っています。
順調に育っています反抗期
初陣の傷は勲章だと思う
馬車になるカボチャを探すハイヒール
古傷に触れると割れるシャボン玉
妥協したあの日の雨は忘れない
087
◆ 沼尾 美智子 1939東京都 ふあうすと川柳社同人
包装がへたね 秘密が洩れている
四コマのサザエさんを十七音にできたらと思う。何より歳をとらないのがうれしい。
つくづくサザエさんになりたい。終えるまで楽しく暮らしたい。
深呼吸 ほうら希望がふくらんだ
無伴奏わかれの曲は突然に
湯どうふがゆらり秘密がこぼれそう
088
◆ 野沢 行子 1950青森市 川柳双眸社幹事
ブリキのバスははひふへほたる散りばめて
見えないものが見え、感じる、そこから生まれる一句を私は求めていきたい。
胸がふるえる睡蓮が咲くモネの闇
マザーテレサの瞳と出会う椿の葉
089
◆ 長谷川 博子 1948島根県 松江しんい湖番傘川柳会会長
もう泣くなコップの水も澄んできた
私にとっての川柳は、自分の手で織った機織の布だと思う。少女期が縦の糸なら、既婚後は横の糸。
あるときは楽しく、またあるときは泣きながら、一枚の布を織り上げていく。
赤ちゃんがプイと横向く離乳食
屑籠にポイと私を捨てちまう
泣いて笑って笑って泣いてふたりぽち
ポケットに溜まったままのありがとう
090
◆ 畑 美樹 1962長野県 バックストローク編集人
吟醸の雫 戦場のしずく
戦争、ということばを使うのをためらう瞬間がまだある。日本酒は極辛口を好む。魚の内臓を塩漬けにあいたような肴を好む。
山盛りのとろろこんぶを差し上げる
お互いの湾のあたりを見つめあう
091
◆ 馬場 涼子 1943福岡県 戸畑あやめ川柳会
うぐいすと微かに首の音がする
脳梗塞が川柳との出会いを作ってくれた。今では川柳のない暮らしは考えられない。
夜もゆっくり眠らせてくれないが、それでもいとおしく、面白い。
愛妻のメトロノームでお茶になる
ほめられて自信過剰のシャボン玉
赤ちゃんのこぶしの中にある宇宙
少年に近道などは教えない
092
◆ 浜田 京子 1925富山県 川柳えんぴつ社同人
夜景でも ご馳走します 坂の家
自分に一番合った趣味だと思い込んでいる。
支えきれぬ思いをしっかり受け止めてくれる川柳、川柳のお陰で素晴らしい人々に会うことが出来た。
愛された思い出胸にある遺産
針持てば女心に灯がともり
風除けに少し太めの人と居る
梅雨ららら傘なないろの花になる
鰯にも尾頭付きの自負がある
093
◆ 原井 典子 1955富山県 川柳展望会員
稲光桃は一人で食べるもの
外の空気を吸ってひたすら歩いていると、今まで気が付かなかった自然界の移ろいや風の匂い空の色に身体が反応して、
自分が生まれ変わっていくような錯覚を覚えます。
よく見える高さで交尾するちょうちょ
真っ白い服を脱いだらただの人
恋愛をしたこともあるイヤリング
094
◆ 播本 充子 1939東京都 川柳塔社理事
三人の息子と八月の平和
主婦業四十余年、企業戦士の夫と個性の強い息子達との暮らし。肝っ玉母さんに徹したあの頃が懐かしい。
川柳バカを自負し夫とゴルフを楽しむ今、私の心にコスモスが揺れている。
春風が 無料体験しませんか
一つずつ地雷を花に替えてゆく
投げ返す石にリボンをつけておく
095
◆ 坂東 弘子 1940香川県 現代川柳「新思潮」正社員
風船がしぼむ再婚でもするか
母と一緒の散歩から我が家の一日が始まる。
ガラスの少女とりまく一面菜の花は
ノラを夢みた一本の樹は色づきぬ
096
◆ 東川 和子 1948伊勢市 川柳みどり会幹事
返信は甘納豆を食べてから
この世の雑事に追われながら、一生なんてあっというまに終わってしまいそう。ときどき思う。川柳で何が残せるのか。
何も残せないような気がしている。でも、きょうも生きるための惣菜(言葉)を求めて、自転車を走らせている。
ボーイフレンドは傘寿 春の珈琲屋
桔梗にもメールアドレスあるらしい
どうせなら明るい方にグレてやる
冷めないうちに召し上がれ 恋も
夫も妻もフリーサイズの服を着て
電池入れると夫が偉そうにする
新妻の隠れ場所なら春キャベツ
097
◆ 樋口 由紀子 1953大阪府 バックストローク同人
世界観臍のあたりで迂回する
近くも遠くもぼんやりして、はっきりしない方がじっくりものを考えるようになり、
いろいろと想像力も膨らみ、楽しいことに気づいた。
川柳もくっきりはっきりと見えすぎる必要はないと思っている。
哲学は桃の缶詰開けるとき
しあわせはグリコのおまけ転がして
098
◆ 平井 玲子 1937新潟県 川柳展望会員
町の名が変わる夕焼け三丁目
いつも新鮮な気持ちでふれあいを大切に、より深い感動を忘れぬようにと願い、
そしてその感動をホームページで紹介する。行動する事で毎日が愉しくなってきました。
コミカルに鳥は歩いて水際あたり
内緒話は横に流れるカフェテラス
昼下がり噂の好きなプチトマト
神さまの許しを受けてみんな忘れた
099
◆ 平田 朝子 1944熊本市 全日本川柳協会理事
ノックして愛が気安くやってくる
私はどちらかと言えば音楽が好きで、文芸には縁がない方でしたから、
今この様に川柳に首まで浸かってしまうなど考えられない事でした。
封筒に込める女の息づかい
嬉しくて今日のドレスが決まらない
許す気の言葉に笑顔足しておく
幸せをまとうときつくなる指輪
口紅の色も今日からひとり立ち
姿見に結び直してもらう帯
好きだから今宵限りの人にする
100
◆ 広瀬 ちえみ 1950山形市 バックストローク 双眸
楽しかった半券だけが残される
ことばたちがショートして、パチパチと火花を散らすときお心地よさと、
一句ができたそのあとにくる含羞。私は川柳という形式に出会ってしあった。
ことばとの濃密な時間は誰にも渡したくないと思う。
晴れた日のこっぱみじんの黄色です
もうひとり落ちてくるまで穴はたいくつ
花束をあげてしまった後の両手
すーいすいすえおそろしいすえむすめ
オネショしたことなどみんな卵とじ
101
◆ 古久保 知子 1946和歌山県 川柳塔同人
安売りは出来ぬと思う寒卵
頑張らない、勉強はしない、その代わり耳も目も大きくと決め、怠け者の哲学を自負している。
街の音、街の空気は私の肌を刺すけれど、決して不快なものではない。
川柳と出会って、人間バンザイ、にんげん大好き、どんな環境にあっても楽観主義でいける。柳友の暖かさで怠け者哲学を謳歌。
靴下の穴に気付いたのは他人
終バスの客の一人は宇宙人
生麦 生米今日は格別いい調子
私のレシピに希望という卵
102
◆ 本多 洋子 1935大阪府 現代川柳点鐘の会創立より会員
空気銃もナイフも児童相談所
川柳にも詩性があって欲しいと思う。同時にアイロニーもなければと考えている。
批判精神が自己に向けられた時、心の内面に深く立ち入ることになるし、
世情に向けられた時、社会性、時事性のある川柳になる。
砂山は崩れ始める国語の時間
早春の山を転がる四分音符
いもうとのポケットにある砂糖水
水を浴び水に溺れる鳥獣戯画
もみ消した三文オペラから火花
103
◆ 前川 千津子 1930兵庫県 ふあうすと川柳社副主幹
少しずつ春の音する異人館
川柳を作ってかなりの歳月がすぎている。燃えるでもなく、さめるでもなく、されど離せない魔もの。その魔ものが好きである。
風の音ペンの音して冬がくる
西側に白ばかり咲く薔薇のばか
珈琲はございませんか夢遍路
一行の余白珈琲埋めてゆく
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