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『現代女流川柳鑑賞事典』 (2) 田口麦彦著 三省堂 2006
この事典には126人の女流川柳家の句が集められている。

編集は、作家名あいうえお順。各作家の代表句及び20句。略歴。出典。作者からのメッセージ。
021
◆ 奥田 みつ子 1932広島県 日本川柳協会常任幹事
文献のページ追う目よ男の眼
嬉しいこと、つらいこと、驚いたこと、楽しいこと、川柳をしていなければ、こんなに豊かな人生は歩めなかったであろう。
ディオールの靴も踵は減るのです
正解は一つではないと本閉じる
私はわたし比べるものは何もない
見詰めればみんな影には尻尾あり
022
◆ 柿添 花子 1930福岡県 大川川柳会えんのき会長
リヤカーの蛍と帰る収穫期
朝な夕な農作業に追われ作句は外出時の電車やバスの中。
東京の息子に会いに行くときの新幹線がとっても楽しく、作句に持って来いの時間であった。
言い訳はよそう明日の米を研ぐ
眉のない女と出会う五月闇
023
◆ 柏野 遊花 1938岡山県 柳都川柳社同人
まっ白に洗う小さなスニーカー
たった十七音で響き合う川柳の世界。まず自分を知らなければならない。
自分では気づかぬ自分を他者がノックして気づかせてくれる。それは自分磨きの助けになっている。
花びらが運んでくれた相聞歌
さくらさくら花も私も口語体
024
◆ 片野 智恵子 1933京都市 川柳黎明舎舎人 京都川柳作家協会理事
シャワー全開やっと私を裏返す
故定金冬二先生の「もうひとりの自分を創る」という教えを唯一の糧としている。
もう一人の自分をみつめ、叱咤し、時には解き放し愛してやりたい。
絵手紙の梅のかなり春の楽章
暗黙の誓いを抱いて竹の花
この指に止まって息継ぎなさいませ
キャベツ畑へ追い込んでからの策
やみくもに歩いて妬心ふりほどく
殺したいと憎んだ一瞬がすべて
やっぱりとまさかにゆれる冬菫
025
◆ 加藤 久子 1939東京都 川柳公論・朱雀会会員
着信アリS字フックに空の穴
四十代から六十代半ばまで健康に恵まれた。やろうと思えば何でもできた時間である。
それはちょうど私が川柳と過ごした時間と一致する。
バランスがとれなくなって紙を吐く
026
◆ 門谷 たず子 1922滋賀県 川柳塔同人
青酸カリと引き揚げてきた命
徴用された夫と満州に。敗戦で引き揚げ船第2便で帰国。自殺用にともらった青酸カリを船上から捨てる。
素晴らしい恋がしたくて歯を磨く
タッチされてわたしの花がみな開く
風十色夫婦のクイズ解けぬまま
027
◆ 金子 美知子 1936神奈川県 川柳「路」吟社主宰
シャボン玉好きな高さで割れている
何かを感じ、思い、その気持ちをどの様な形で表すか、多くの芸術がある中で自分に合った色彩を見出すきっかけは出会いであると思う。
こころの襞を十七文字に託し広がるドラマ、感動の世界は果てなく、私を熱くさせ続けます。
青春をつぎはぎにして滝の音
妻の手のいざという日の金平糖
年齢不詳 菜の花畑の鬼ごっこ
許すのはよそう炎が消えるから
028
◆ 鎌田 京子 1947石巻市 川柳展望会員
分別ができないわたしの中の塵
最近になって「誰かに会いたくて」川柳を書いているのかもしれないと思うようになった。
閉経のラインダンスの列にいる
熟れ過ぎて上手に笑えない果実
029
◆ 河瀬 芳子 1929岐阜県
有季定形 春の海月の大欠伸
振り向くことは嫌いです。常に前を視て歩いてきた自分を今更乍ら愛しいと思う。
体温ほどの愛を下さい 木の匙よ
一度も風を掴めなかった女神
030
◆ 河内 月子 1940宇部市 川柳塔社常任理事
コンタクトはずすところを見てしまう
(作者からのメッセージ)
やさしいことばでさらさらと 的を絞って リズムよく
わたしのこころ みえるよう 君に伝える 一行詩
犬がわんわん 吠えるよう 雀ちゅんちゅん 喋るよう
烏がかあと 啼くように くらしの歌を 歌います
坐ったら動かんことにしています
なんやかや言うて大阪捨てられず
なるようになりますわいなもうねまひょ
わたしの指輪本物みたいやろ
031
◆ 北沢 瞳 1946新潟県 バックストローク同人
崖っぷち「さても南京玉すだれ」
草花を師として私も理不尽なこの世を笑いとばしたいと思う。
ふしだらな釘にエプロンぶらさげる
お背中を流しましょうか刺しましょか
ふとももに描いた桜が散ってゆく
手内職惚れた男はただ一人
腰振ってもぞもぞ落す栗のいが
032
◆ 木本 朱夏 1940和歌山県 川柳塔社常任理事
救命具はひとつあなたはどうします
私にとって川柳とは、生きてゆく日々に不可欠な栄養素、ビタミン愛である。
こいびとをかえるわたしのころもがえ
眉描いて守るべきもの何もなし
体温を盗まれしろい曼寿沙華
033
◆ 草地 豊子 1945和歌山県 バックストローク同人
ういろうの感じで列に立っている
私は列の先頭に付くことはまず無い。羊羹のようにはっきりした甘さもなく、とらえどころのない外郎のように。
平凡な赤い金魚が生き残る
034
◆ 久場 征子 1940富山市 川柳えんぴつ社同人
応援のとぎれた橋の上走る
広大な砂漠を雨雲を追って一生涯走り続ける鳥エミュー。私も走るポストまで、生ゴミを出すために、、、
ゆっくりとはじまるジェットコースター
元気でしょうかあなたの中に居るわたし
美しい蛇いろごとはかたちから
水草の陰にかくれて睦み合う
大人の遊びしようカナカナ鳴いている
鼻息の荒い馬にも乗ってみよ
あんたって脱ぎっぱなしの靴下で
035
◆ 倉田 恵美子 1944三重県 番傘川柳本社同人
充電完了 雨も上がったようですね
簡単なようで難しい。川柳というかけがえのない恋人に巡り会い、言葉を紡ぎ出す楽しさ、苦しさを知りました。
フィクションであり、またノンフィクションである川柳。心の底からの叫びを言葉に変えるとき、開放された喜びを感じます。
羽化の途中で春の嵐に遭った
深いふかいみどり生命を眠らせて
戻れない日へ木いちごの赤く熟れ
熱い熱い夢を見ました合歓の花
熱愛という潮引いてゆく やがて
なんでもないことだった ひとつの別れ
別れの手紙コトリわたしを押しつぶす
翔ぶちからください 空よ風よ樹よ
熱いものありたぎるものあり いのち
036
◆ 桑野 晶子 1925東京都 札幌川柳社同人
時は流れてトリノは淡き影法師
春には、小川の土手に新芽と水の語らいが、夏には、土手の芝や若樹との涼やかなはーもにーへ、そして、
七彩に染め上げる秋天の樹々との融合、そんな天、地、人との語らいが、私の一句を灯す原点となっている。
次の世もじゃんけんぽんの友情で
037
◆ 古賀 絹子 1939福岡県 川柳噴煙吟社幹事
わが父に疑うことは習わざり
読む人の心にふんわりと下りてゆく易しい言葉で、おかしみや哀歓など生活に根差した作品を赤裸に書いて行きたい。
自分の魂の在り処を探しながら。
乗ってみておもしろかった口車
舞台はまわる私が居てもいなくても
038
◆ 古俣 麻子 1952横浜市 川柳路吟社同人
夫の背丸いそろそろ許そうか
「なぜ川柳を創るのか」と問われたら、「心を開放するため」と答えよう。
くちびるを奪える距離という遠さ
心中をしようかなんてヨーグルト
シャッターを下ろすネクタイほめてから
連れ添ってほどほど殺意 星月夜
039
◆ 近藤 ゆかり 1950京都市 川柳大学会員
嘘つきにならないように口つぐむ
私にとって川柳を問われた「生きている呼吸であり、証でありたい」と答えた。川柳に出会ってから日記を一切書かなくなった。
福豆がころころと逃げてゆく
早送りすると桜が散っただけ
言い勝ってなにほどのこと冷めたお茶
040
◆ 西郷 かの女 1928新潟県 十日町川柳研究社主宰
姉の尺度はいい加減でしあわせ
不治の病である難病に取りつかれて暗い穴の中にいた時、私を奮い起たせてくれたのが「川柳」だった。
川柳とお洒落と花いじりで今の私がある。
あれはまぼろし花の精きて花の乱
病みき せめてまあるい乳房であれ
いのち燃えつきる日の花筏
冬桜さくらさくらと狂うまで
『現代女流川柳鑑賞事典』(1)
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⇒『現代女流川柳鑑賞事典』(5)
⇒『現代女流川柳鑑賞事典』(6)