俳句鑑賞文(復刻版)    2016 May        トップへ   



聖五月記録に残す鑑賞文

俳句大学投句欄を中心に(出来るだけ)毎日下手な句を投句している。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるとばかり、多作多捨がモットーだ。
それでも時たまそんな句を拾って鑑賞をして下さる方が出てくる。
とても嬉しく励みにもなる。自分が採ってもらって嬉しいということは、
他の人の作品に鑑賞文を寄せることでその人にも喜んでもらえるということだろう。
自分の句を認め鑑賞してもらうことばかりを願うのではなく、
自分も他の人の句に対して鑑賞を行い、その人の句を褒めてあげるということも大切だと思う。

句作と鑑賞は車の両輪だ。句の鑑賞に意を注げば自ずと句作力も向上するのではないか。
そんな気持ちから、自分の力の及ぶ範囲で好きな句を見つけたら感想文を書かせてもらうことを始めた。
「一日一句互選・鑑賞」
初心者故に句の深い造りなどに言及することはまだ難しいが、
その句から見えてくる「景」や「作者の気持ち」を忖度して感想文にまとめることが中心となる。

自分が残した感想文が作者の方にちゃんと届いたか否かは別として、書いた感想文を記録として残そうと思った。
続けている内に鑑賞の技術も次第に深まることが読み取れるようになるかも知れない。







(5/31)    踝の姿よろしき少女かな 祐

ナマ足の少女の踝が目に入った。何とも言えず良い形をしている。
人(男)は相手(女性)の身体の一部を見て何かを感じるものだ。
眼であったり鼻であったり、或いは髪の毛、耳、顎、脹ら脛かも知れない。
この句の場合作者は踝を通して少女の全てを見通したいと願っているのではないだろうか。





(5/29)    葉桜や指定喫煙場所烟る をがはまなぶ

近頃の都会では喫煙マナーに厳しく、駅周辺や繁華街、公園などには指定の喫煙所が設けれれている。
作者はここで喫煙していてふと見上げると葉桜が見えたという景だろう。
咲き誇った桜も葉桜になり、青葉の安らぎとやっと喫煙所を見つけたという安堵とが重なる。
(非喫煙者から白眼視されながら)喫煙所を探す嗅覚を磨く私にはとても共感できる句だ。





(5/28)   【第二回 プレバト選句】

(特選)   滝落つる地軸を穿つごと落つる  征一

コメント  大量の水を落とす大きな滝だ。日光の滝、華厳の滝などが思い浮かぶ。
落下する水の勢いは、地を穿ち地球の中心までも届く勢いだ。轟々たる水音が聞こえてくる。
「落つる」の措辞を重ねることで滝の豪快さがよく表されている。



(今日はとても共感する句が二つあったので、敢えて一日二句としました)

蟻地獄堕ちてもいいと思ふ午後  美音

恋は「する」ものではなく「落ちる」ものだ。
一粒の砂につまずいた途端、ずるずると奈落の底に引き込まれていく蟻地獄。
地獄の底で待ち受けているのは、無残な死の恐怖かそれとも甘美な快楽の饗宴か。
あぁっ落ちていくと判っていながら、堕ちてもいいと覚悟を決める、
そんな開き直りの気持ちを感じました。

向瀬美音 北野さん、鋭い鑑賞をありがとうございます。さすが北野さん!


夫の髭ピンポイントの暑さかな  平林 佳子

上五中七(夫の髭ピンポイントの)がどういう場面なのかと想像が膨らみました。
夫の顔に指を当てて、「あなた髭が伸びてるわよ」ということか、
或いは夫の伸びた髭が胸に触り思わず「痛いわ!」と言ってしまったのか。
ピンポイントという言葉からチクリッと触ったこと、それを暑いと詠みたい情景は何か?
女性にしか詠めない素敵な句だと思いました。

平林 佳子 北野さん 選んで頂きありがとうございます?
一つだけ。。。私の夫は口髭を蓄えております(ムスタッシュ)   後はご想像のままに??





(5/27)    スカートをたくしあげ追うゲンゴロウ  平林 佳子

小学生のお転婆な女の子が田植えの終わったばかりの田んぼの中にゲンゴロウを見つけ、
捕まえようとスカートをたくし上げて追っかけている様子を想像しました。
初潮前の女の子は好奇心も強く男の子並みに活発だ。パンツが見えようと気にはしない。
作者は遠い記憶の自分自身を詠んだのかも知れない。


平林 佳子 北野さん 選んで頂きありがとうございます。
はい。私の子供の頃の事です。思い返すとどうやら私お転婆だった様ですね。
知りませんでした(笑)最近俳句の怖さを実感しております。時々ポロリと知らない自分が出るようで。。。自戒!!(^-^)





(5/26)    浮世絵の団扇挟みし帯が行き 幸

祭りの風景だろうか、或いは夕涼み時。
その人は着物(浴衣? 法被?)の帯に浮世絵の団扇を挟んでいて如何にも様になっている。
手に持つのではなく帯に挿すのは男だろうか? いろいろと想像させる楽しい句だ。

Sachiko Hayashi 一日一句互選にお選び戴きありがとうございます!
ちょうど蔦重の本を読んで居たので浮世絵の団扇が浮かびました!
いなせな若者が尻っぱしょりに美女の団扇かな?
町娘が浴衣に美男の役者絵の団扇かな?
浮世絵が生活の一部の本の世界に旅をしておりました!





(5/25)    ☆ 天つ家を開くをみなやらいてう忌  栄太郎

平塚 らいてう(本名:平塚 明(ひらつか はる)、1886年(明治19年)- 1971年(昭和46年)は、
日本の思想家、評論家、作家、フェミニスト、戦前と戦後に亘(わた)る女性解放運動家。
戦後は主に反戦・平和運動に参加した。
日本で最初の女性による女性のための文芸誌『青鞜』を創刊し、『元始、女性は太陽であった』という有名な言葉を残した。

また《鳴神や、仁王の臍の紙礫》 という句を詠んでいる。
(恋はいつも、あの「鳴神」の雲絶間姫のように女がリードするもの。
男は仁王さんみたいに力瘤なんか作ってエラそうにしているけど、
ちょっと何かあれば臍を隠してバタバタするものなのよ。
そんな男の臍、男の中心部めがけて、この紙礫=「青鞜」を投げつけてやりましょうよ。
ー「胸に突き刺さる恋の句」 谷村鯛夢著より)
らいてうの始めた女性解放運動は平成の世に〈女性活躍推進法〉を作らせた。
天照大神に始まる天つ国、らいてうの偉業を感慨深く偲ぼうではないか。

桑本 栄太郎 北野さん・・・一句選にお選び頂き、平塚雷鳥の偉業を詳しくご紹介頂き大変ありがとうございます。
「日の本は女ならでは世の明けぬ国と云われ」、現代では当たり前となっている女性の婦人参政権を始め、
社会進出への道を開いた平塚雷鳥の偉業を広めるべきですね?歴史の教科書で教えるだけでは不足です。

北野 和良 鑑賞が桑本さんの句意に沿ったものかどうか自信がありませんが、
私自身がらいてうを振り返るよいきっかけになりました。有難うございました。





(5/24)    銀河系薔薇となり咲き誇りけり 亜仁子

銀河系或いは星雲の天体写真を見ると、恒星を中心にして巨大な渦巻きに見えるものがある。
作者はこの渦巻を薔薇の花弁に見立てているのだろう。
このような星々からの光は億光年という長い時間を掛けて我々の目に届く。
広大な宇宙の大きさと長い長い時間の経過を、可憐なバラにフォーカスさせた秀句だと思います。





(5/23)    あぢさゐや雲はいづこに行きしやら 満徳

「年々歳々花あい似たり 歳々年々人同じからず」と古詩に謂うが、
梅雨の時期を迎えた熊本でも紫陽花の花が色づき始めた。
だが、地上では山を崩され家を壊された人々が、必死で復興に取り組んでいる。
空を行く雲は人々の営みを見下ろしてどんな思いを持っているのだろうか。
昨日の朝日歌壇の歌
【「三かなあ」「ニだよ」震度を挨拶のごとく言い交わす 余震が続く(熊本市 垣野俊一郎)】。
雲よ「熊本 がんばるばい」を全国に伝えてくれるかい?
花と雲に被災地の思いを託したとても佳い句だと思いました。





5/22    青大将その淋しさを分かち合ふ 亜紀彦

庭或いは森の中で青大将を見つけた。赤い舌をちろちろと出しながら小さな目でこちらを見てから
身をくねらせて草の間に隠れてゆく。ふと青大将も淋しいのだなと感じた。
だがそれは作者の淋しさの反映だろう。ヘビよお前も淋しいのだなと言いつつ自分をも慰めている。
そんな風景の浮かぶ句でとても共感しました。





5/21    夏雲や下に広がるモネの国 美音

モネと言えば睡蓮の絵を思い浮かべる。
たくさんの美術館に所蔵され、また画の景色を実物大に再現した池と庭も所々に見かける。
作者はどこかの公園の池に咲く睡蓮を眺めているのだろう。
可憐に咲く睡蓮の背景に青空が広がり夏雲が湧き出ている。まさに一幅のモネの絵だ。
「モネの国」の措辞が新鮮だ。





5/20    つくづくと水の国かな植田澄む はるを

小満のこの頃、農村地帯には田植えを終わった田では整列した苗が水に姿を映している。
弥生時代から受け継がれた日本の原風景だ。
豊葦原瑞穂の国という言葉を実感し、この国に生まれて良かったという思いが句に溢れている。





5/19    〈真砂女にはなれぬ卯の花腐しかな 美音〉

 鈴木真砂女は千葉県の生れ(1906-2003)、2度の結婚と年下の海軍士官との不倫や離婚を経験し、
後年は銀座の小料理屋「卯波」の女将となる。彼女の句は世間に認められない恋の苦渋に満ちている。
彼女はその苦しみを句作で昇華しようとしたのだろうか。


〈羅(うすもの)や人悲します恋をして〉
〈すみれ野に罪あるごとく来て二人〉
〈死なうかと囁かれしは蛍の夜


晩年の句〈戒名は真砂女でよろし紫木蓮〉には、人生の達観が読み取れる。
凡人の平穏な人生と真砂女の生き様が重なることはなく、それ故にまた彼女の境地に迫ることも難しい。
作者は真砂女の句に共感しながらも、そんな自分を振り返り「真砂女にはなれぬ」と詠み切ったのだろう。





5/18    〈傘寿とて白寿とてなほさくらんぼ 美音〉

 「青春とは、心の若さである」 というサムエル・ウルマンの詩を思い出しました。
いつまでもさくらんぼのような瑞々しさ、ゆたかな想像力、燃える情熱を持ち続けたいという作者の思いが籠っています。





5/17    〈夏帽子褒めて始まるウエディング 美音〉

 夏帽子を被っているのが誰かでいろいろと解釈は変わりそうだが、私はベールを付けた花嫁さんが、
招いた親友(女性)に「よく来てくれたわね。その夏帽子とってもお似合いよ」と挨拶している場面を想像しました。





5/16    〈万緑の野天湯光る蒙古斑  はるを〉

 万緑に染る昼日中の野天風呂でくつろいでいる旅人、蒙古斑とあるから日本人同士でしょうか。
近くから野猿もやって来るかもしれませんね。





5/16 席題    〈青葉潮餌など無用一本釣 正則〉

 鰹の群れを追って豪快な一本釣り、季語と響き合っています。




5/15    〈神となる柱は天へ新樹光 正則〉

 祭りの神々しさが見える佳句です。季語とよくマッチしていると思いました。




5/12    〈髪切るや街に溢るる夏帽子 美音〉

 大概の男にとって髪型などさほど関心はないが、女性にとっては大事なファッションの要素のようだ。
冬は長く伸ばし、夏になるとショートヘアーに切って夏気分に。
夏帽子を選び、ちょっとお洒落にして外出するのは最高だろうか。





5/11    〈制服に秘めし血潮や青嵐 のどか〉

与謝野晶子を髣髴とさせるような句である。
制服という言葉から、先日電車に飛び込み自殺した?二人の中学生のことを思った。
二人の女子にも熱い血潮が流れ、将来への夢も持っていたはずなのに、
どうしてあのような道を選んでしまったのか、実に残念だ。
青嵐の季語がいろいろと考えさせる句だ。





5/10    〈初夏の風の匂ひの少女かな  清一〉

緑の中に立つ思春期の少女の姿が浮かび上がりました。




5/07    〈 ハミングのやうに過ぎ行く卯月かな  征一〉

過ぎ去ってゆく春を懐かしむ気持ちがハミングの措辞で鮮やかに表されている、好きな句です。




5/06    〈内腿に刺青のをんな夏の夜  亜紀彦〉

 任侠映画の一場面を思わせる大胆な句です。




5/05    〈子らの声聞こえぬ街のこどもの日 美音〉

国の少子化を憂いて、政治家の行き過ぎた発言が物議を醸すこともあるが、
「子らの声聞こえぬ街」と淡々とした措辞で愁いを表したところが秀逸。




5/04席題  「特選」   ☆ 目借り時十七文字の夢を見る  平林 佳子

「寝ては夢、起きてはうつつまぼろしの・・・・」を思い出す。
作者の俳句への情熱はうたた寝をしている瞬間も、言葉を探しているのだろう。



「入選」    ☆ 口遊む港の見える丘遅日  征一

☆ 遅き日や仕舞ひしままのマイナンバー  栄太郎

☆ 竹の秋バックミラーの妻の顔 ぶせふ





5/04    〈滝壺の耳をつんざく静寂かな〉(平林 佳子)

滝が落下して高い水音を立てているが、その景色に不思議な静寂を感じる瞬間がある。
水辺に咲く若草に命を見る瞬間だ。
「石ばしる垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」(志貴皇子)


平林 佳子 北野さん   選んで頂きありがとうございます。
こんな嬉しい事はありません。私の心を見透かされたようです。 仰る通りなんです。
隣にいる人のことばも聞き取れない程の水音の中にいて何故かふっとエアポケットに飛び込んだ様な
静まり返った一瞬がありまわりの景色が際立って見え息ずいて鮮やかなんですね。
共感して頂ける事の嬉しさは格別ですね(=^▽^=)





5/03    〈風掴み風を遊ばせリラ揺らぐ  征一〉

 五月の爽やかな風のなかでたゆとうているリラの花の写生が効いています。


5/02    〈被災して五月の雲を見るばかり 満徳〉

熊本地震の被災者の無念、呆然とした姿に同情を禁じ得ません。




5/01    向瀬美音 緑陰の光の粒やドビッシー 美音

リズムもよくピアノの音が聞こえてくるようでとても好きな句です。



    〈 風に乗りかすかに聞こゆ労働歌   keiko〉

アベノミクスで経済が好転しているという実感はないものの、
さりとて眼尻を決して賃上げを勝ち取ろうと言う切迫感もない現状が
「風に乗りかすかに聞こゆ」という詠みに現れている。








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