読書室トップへ
柳生十兵衛 (7)無刀取り、四十八人斬り
峰隆一郎著 徳間文庫 1992 2016/08/19
甲府に蟄居中の駿河大納言忠長は、大御所秀忠に伏すと家光の命により高崎城へお預けとなった。
いよいよ切腹の沙汰が迫るが、十兵衛は若年寄の阿部豊後守忠秋の「忠長を攫え」という真意を探る。
一方、忠長の家臣たちは幕府の策謀で江戸を追われ、その恨みは十兵衛に向けられた。
そして剣の達人、室伏十郎太も十兵衛の命を狙う。
立禅修業に励む十兵衛は、独自の無刀取りを体得した。
好評書下ろし第七弾。
一章 龍尾
寛永八年(1631)五月ーー。
柳生十兵衛は、甲府の北にある茅ヶ岳に登っていた。小さな炭焼小屋をみつけ、そこに寝起きする。食料は焼米を持って来ていた。水は谷川の水をのむ。昼間は眠っていた。そして夜になると起き出して森に入る。刀を抜いて立ち、そして双眸を閉じる。立禅である。
十兵衛は、まだ月影を身につけていなかった。月影とは漆黒の闇である。その闇の中で斬り合う。ふつうの闇夜であれば、どこかに明かりがある。その明かりは刀刃に反射する。その反射に応じればいい。だが、漆黒の闇では何も見えないのだ。
月影の闇で斬り合うには目を閉じよ、と小野次郎右衛門忠明は教えた。目を開いていても何も見えないのだから、目を閉じていても同じだ、というのが理屈である。
だが、相手と対峙して目を閉じるのは恐ろしいのだ。闇であっても目は大きく開いていたい。それがいけないのだという。目を開いているということには目に頼ろうとする気持ちがある。
目を捨てよという。目で見ようと思うな、心眼で見よという。十兵衛にはわからなかった。
忠長は楓の乳を揉んでいた。弾力のあるわりに大きな乳房である。乳首は小指の先くらいに大きくなりしこっていた。
乳房を揉み上げる。楓は鼻息を荒くしていた。揉みながら乳首を口に咥えた。楓が声をあげた。乳首には吸いやすくなっている。鮮紅色をしていた。
しゃぶりながら手を下にのばす。そして着物の前を開く。そこに肉付きのよい腿があった。腿を撫で回しておいて、開かせ、はざまに手を滑り込ませる。
切れ込みを開いて、そこに指を遊ばせる。楓は声を上げて腰をくねらせる。切れ込みの中は潤んでいる。楓の体は触れられるとすぐに反応するようになっている。
二章 逆風の太刀
「大御所(2代将軍秀忠)がご病気か」 ともう一度、つぶやいた。
忠長(秀忠の子)が憐れだった。将軍になれなかったばかりか、死を賜ることになる。家光が将軍になったときから、忠長の死は決まっていた。将軍家にとって、忠長が生きているということは邪魔なのだ。
そのことに忠長自身が早く気付いていれば方法はあった、といま言っても遅い。おとなしくしていればそれで安泰と思うていた。それが間違いだった。取り返しのつかない間違いだったのだ。
それも、いよいよである。秀忠の死を待っている。秀忠が生きていれば、忠長に切腹を申しつけることはできない。秀忠に嫌われていても、親子のつながりはある。
お春を仰向けにさせると抱き寄せた。寝間着の襟を開いて乳房を掴む。お春は、アーッ、と声をあげた。
十兵衛に抱かれるのは久しぶりである。乳房を揉み上げる。乳房が立ち上がっていた。
乳首を口に咥え、手を下にのばす。寝間着の裾をめくった。足を撫であげていく。下腹の丘にごわついた茂みがあった。よく縮んでいる毛である。お春は手をのばして彼の股間を探る。そして怒張した一物を手にすると、溜息に似た声を洩らした。
「うれしいです」 と言った。
手をはざまに滑り込ませる。はざまを上下に撫でて中指を折ると、それが切れ込みのなかにつるんと滑り込んだ。そこは熱く潤んでいたのである。そこに指を遊ばせる。
「あーっ、十兵衛さま」 と腰を震わせる。
「口でいたします」 と言った。口で一物を味わいたいんだ。お春は体を起し、股間に顔を埋めてくる。
三章 猿飛
「一手教えてつかわす」 木刀を右手に下げて、十兵衛の前に立った。「この木刀を取ってみよ」
「父上、おやめなされ、年寄の冷や水ですぞ」
「いうな、柳生新陰流の一手じゃ」 「無刀取りにござりまするか」
「取ってみよ」 宗矩は足をすって、木刀を正眼に構えた。十兵衛を打ちすえるつもりかもしれぬ。十兵衛はゆっくりと立った。刀は床に置いたままにする。
「父上から教えを受けるとは思いませんでした」
「参るぞ」 宗矩は、足を擦って間を詰めた。そして間合いに入って木刀を振り上げる。その寸前に十兵衛は動いた。
すーッ、と体を寄せて、木刀の柄を掴んだ。掴んだと思ったときには宗矩の体を押した。
宗矩はよろめいた。よろめいたところを引いた。木刀は十兵衛の手に残り、宗矩は床に尻をついていた。そして顔をしかめた。
「よく取った。だが親に対して少し乱暴だな」
「年寄の冷や水、と申しました」 宗矩は腰を撫でながら、立ち上がった。
月影
柳生流に月影という術はある。だが、柳生の門弟の中に月影ができるのがいるのか、江戸の柳生門下にも、柳生の庄にも、そんな剣士はいない。
名称が残っているだけの剣か。月影という名があるのだから、過去には誰かできたのだろう。
八重垣にしても同じだ。十兵衛は八重垣ができたと思った。忠長の家臣二十数人に挑まれ斬った。だが、甲州街道の鶴川で二十人ほどに挑まれたとき、八重垣を使う気がなくて畦道に逃げた。逃げながら斬った。
八重垣は危ない術だと言った。どの術だって危なくないことはない。相手のあることだからである。
背中に、後頭に目がないからである。老師は目を閉じると四方が見えると言った。その境にまで遠い。
六章 立禅
家光は二十歳をすぎても、女の股間にはももんがあが棲んでいると思い込んでいた。黒黒とした茂みの中に口がある。その恐ろしげなところに、おのれの一物を入れる気になれなかったのだ。それで二十七歳まで、男だけですましてきた。
家光ははじめてお蘭という女の体に興味を持った。女の体は男と違って柔らかく美しい。そのことに気付いた。
だが、なかなか股間に手をのばして来ようとしなかった。二十七にもなって女の股間がこわいのだ。
お蘭が家光の一物を手にする。そして手でしごき、口にする。舌の動きが柔らかでこまやかなのだ。家光は女の髷を掴み股間に押し付けて呻いた。そしてしたたかに精汁を放出する。お蘭はそれを受けて呑み込んだ。
その夜、お蘭は家光の一物を口にしていた。放出する前に家光の腰を跨いだ。
「お蘭、何をするのだ、無礼であるぞ」
「申しわけございません。しばらくがまんしていただきます」
家光も興味を持っていた。「大事ないか、大事ないか」 と声をあげる。一物は壺のなかにつるんと滑り込んだ。
「ひやあっ」 と声をあげた。お蘭が腰をゆする。すると家光もお蘭の体にしがみつく。お蘭が腰を振る。たちまちにして家光は放出してしまった。
「いかがでございます」 「ふむ」 と唸る。「女の壺とは妙なものよ」
八章 自刃
高崎城で忠長が自刃したという報せが江戸に届いた。家光は安堵した。
死んだのがたとえ影武者であっても、表向きは忠長が死んだのだ。忠長が表に出ることは二度とない。市井の片隅でひっそりと暮らすしかないのだ。
葬儀はひっそりと行われ、遺骸は高崎の大信寺に葬られた。
葬儀の日に、小姓の本多弥左衛門正輝が腹を切って殉死した。
忠長、二十八歳、正室との間にも側室にも子供は一人もなかった。
◆ 三代将軍になるはずだった忠長は、春日局と家光の謀略によって自刃させられた。