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情熱の歌人 柳原白蓮 matu5692大分県・男性 2014/07/23
生けるかこの身死せるかこの身

◆ 柳原 白蓮(1885〜1967) 本名 Y子(あきこ) 歌人
名門華族の出身で大正天皇とは従妹の続柄である。大正三美人の一人に数えられた美貌の持ち主。
15歳で結婚し16歳で出産するが5年で破婚する。筑豊の石炭王と再婚し贅沢三昧の生活ではあるが心満たされぬ生活でもあった。
7才年下の東京帝大生と出会い、恋に落ち失踪そして結婚する。だが夫龍介が結核を病み生活は困窮しY子は筆一本で家族の生活を支えることとなる。その後は質素ながら平穏な生活を送る。
白蓮の歌は明快で分かり易い。
《殊更に黒き花などかざしけるわが十六の涙の日記》
《おとなしく身をまかせつる幾年は親を恨みし反逆者ぞ》
《ゆくにあらず帰るにあらず居るにあらで生けるかこの身死せるかこの身》
Y子は15歳で北小路資武と結婚する。北小路家で「妾の子」と心ない言葉を浴びせられ大きなショックを受け、初めて妾腹であることを知る。16歳で男児を出産する。
「わが十六の涙の日記」 十六は数えの16歳。嫁入りした時から慟哭の生活が始まった。それは嫁入りさせた「親を恨みし」日々でもあった。5年で破婚し、実家に戻る。
3年後に東和英和女学校に入学。佐佐木信綱の竹柏園歌会に入門する。慰めは勉学と詩作だった。
《踏絵もてためさるる日の来しごとも歌反故いだき立てる火の前》
《誰か似る鳴けようたへとあやさるる緋房の籠の美しき鳥》
《ともすれば死ぬことなどを言ひ給ふ恋もつ人のねたましきかな》
《年経ては吾も名もなき墓とならむ筑紫のはての松の木のかげに》
筑豊の石炭王伊藤伝衛門に売られるが如く筑豊に嫁ぐ。Y子26歳、伝衛門との年齢差は25歳ある。
この頃から雅号を柳原白蓮と称する。白蓮は信仰していた日蓮に因む。
《我歌のよきもあしきものたまはぬ歌知らぬ君に何を語らむ》
《天地(あめつち)の一大事なりわが胸の秘密の扉誰か開きぬ》
《ひるの夢あかつきの夢夜の夢さめての夢に命細りぬ》
Y子は別府の別荘赤銅御殿で宮崎龍介と会う。龍介は機関紙「解放」の記者で、Y子の戯曲『指鬘外道』(しまんげどう)の上演の許可をもらいにきたのだ。社会改革の理想を熱っぽく語る龍介の情熱と教養の高さに強く惹かれる。それは金では埋められないものでもあった。心を惹かれたY子が恋に落ちるのに時間はかからなかった。
Y子は一日に何通も手紙を書き、龍介の机の上には恋の短歌の電報がうず高く積まれていた。
《吾は知る強き百千(ももち)の恋ゆゑに百千の敵は嬉しきものと》
《君故に死も怖るまじかくいふは魔性の人か神の言葉か》
「白蓮女史失踪事件」(大正10年)が起きる。
意見のすれ違いが夫婦喧嘩の基本形であり、それは昔も今も変わらない。だが白蓮事件は夫婦喧嘩では収まらず全国民が注目する事態となってしまった。特に駆落ちという不祥事を起こしたY子が華族の身分であり、今上天皇の従妹ということが最大の問題であった。
《幾億の命の末に生まれたる二つの心そと並びけり》
《わが命惜まるるほどの幸を初めて知らむ相許すとき》
筑紫のころ
《われはここに神はいづこにましますや星のまたたきさびしき夜なり》
《和田津海(わだつみ)の沖に火もゆる火の国にわれあり誰(た)そや思はれ人は》
《われなくばわが世もあらじ人もあらじまして身をやく思ひもあらじ》
その後
《思ひきや月も流転のかげぞかしわがこし方に何をなげかむ》
《かへりおそきわれを待ちかね寝(いね)し子の枕辺におく小さき包》》
《子らはまだ起きて待つやと生垣の間(あい)よりのぞく我家のあかり》
《子をもてば恋もなみだも忘れたれああ窓にさす小さなる月》
《ああけふも嬉しやかくて生(いき)の身のわがふみたつ大地はめぐる》
《月影はわが手の上と教へられさびしきことのすずろ極まる》
晩年、Y子は緑内障により両眼失明する。その不安定な心境をそのまま詠んでいる。以後、龍介の介護を受ける。
《そこひなき闇にかがやく星のごとわれの命をわがうちに見つ》
昭和33年、緑内障のため両眼失明。
昭和42年2月22日逝去。享年82
http://blog.livedoor.jp/hujikawa516/archives/1541260.html
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NHKの朝ドラ『花子とアン』の中に、【蓮子の駆け落ち】【主人に対する絶縁状の新聞公開】というセンセーショナルな場面があり、蓮子とはいかなる人物だったのかとネットで調べてみた。たくさんの記事が見つかった。
大正10年に起きた駆け落ちー失踪事件は、全国の話題となる大事件だったようだ。
歌人として歌の評価がどうなのかは分からないが、彼女の波乱に富んだ人生の苦しみ、始めて出会った宮崎龍介との運命的な恋を分かりやすい言葉で詠った歌に共感する。
(私と同じようにもっとよく知りたいという人は多いらしく、週刊誌も特集記事を書いている ⇒)