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 女性俳句の世界(5)ーーいのちの賛歌ーー    青木誠一郎  角川文芸出版2008     2014/04/04 

『鑑賞 女性俳句の世界(5)』いのちの賛歌 青木誠一郎編 角川文芸出版 2008を読んだ。
昭和後期に活躍した女性俳人27名の紹介・作品が載っている。
中で気にいった恋/情念の句を選んでみた。



◆ 千原 叡子(1930生)兵庫県

 《草刈女乳房出す手を草に拭き》       《ほほづきの 鳴る母の口児に不思議》

 《苺つぶす青春に悔なしとせず》       《再会は偲び合うこと夏霞》

 《朝光に千鳥は白き胸見せて》


 蓬田紀枝子(1930生)宮城県

 《寝返れば香水瓶のまのあたり》

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◆ 星野 椿(1930生)東京都

 《洗髪束ねしままで煙草吸ふ》       《青々と菊の蕾のふくらみ来》


◆ 金久美智子(1930生)東京都

 《しばらくは柚子湯に佇ちし女身かな》       《うすものやわがゆく方の薄明かり》

 《色鳥や病みては妻も擁かれず》

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【汀子論】(長谷川櫂
 稲畑汀子の俳句には明らかな特徴がある。それは句のほとんどが一物仕立ての句であるということ。
 たとえていうなら、一物仕立ての句は一句全体が写実という大地の上にある。その大地をどこまでも歩いてゆける。
 ところが、取り合わせの句ではこうはいかない。歩いているうちに、突然、断崖絶壁の上に出る。これが句中の切れ。
そこから向こうの断崖に渡るには深い谷をふわりと跳び越えなくてはならない。そのとき、作者は写実の大地を離れる。
 子規や虚子だけではなく、近代俳句全体に一物仕立ての句が多いのは、
俳句の近代が写実の時代であり、一物仕立てこそ写実の形式だったからだ。
 汀子はこの近代俳句の写実派の流れを受け継ぐ。


◆ 稲畑汀子(1931生)横浜市

 《咲き出でて耀ひそめし花の闇》       《落ち椿とはとつぜんに華やげる》

 《今日何も彼も なにもかも 春らしく》


◆ 小檜山繁子(1931生)樺太ー福島県

 《肉感は天に捧げて朴の花》       《ジーパンの張りつく腿や蝉時雨》

 《身にしむやスカートに透く脚二本》


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◆ 田邉香代子(1931生)東京都

 《どこからゆるむ瀑の乱交凍結し》       《降りしきる雪みていれば息激す》

 《あめんぼの流されまじとして交る》       《辛夷の痛い白さ他人の夫掠め》

 《滝の前われも声上げ崩れたし》       《乳房の鈴鳴らすわたしの雪おんな》

 《硝子切る音を乳房がさきに聴く》       《愛され方足らずあしうら熱砂で灼き》

 《虹いろの鋼でしなう抱かれた腰》       《かぞえきれぬゆびがふれたいいそぎんちゃく》

 《指が裂ける股が裂けるとアマリリス》       《舌って何この不定形暖かさ》

 《九輪草不倫苦輪と咲きのぼる》
       《ねこじゃらしわたし編み上げられたいな》

 《吾亦紅触れ合いたくて風待てり》

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◆ 鍵和田柚子(1932生)神奈川

 《桐の花すれちがふ衿乳匂ふ》       《アネモネや神々の世もなまぐさし》

 《しだれ桜乳房萎えゆく思ひあり》       《人妻や白桃に刃をためらはぬ》

 《春泉かそけき肌飢ゑは恋に似て》


◆ 渡邊恭子(1933生)東京

 《天の川 真夜黒潮と ゆれかはず》       《白孔雀 涅槃の翅を ひらきけり》

 《紅鱒の 斑をこぼさずに 焼かれけり》       《餅焦がす 捨て切れぬ駄句 うろうろし》

 《夢のはじめも 夢のをはりも 花吹雪》


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◆ 遠山陽子(1932生)東京

 《マッチの火 雪に投げたる 恋慕かな》       《呼ぶ声を 空は返さず 花ぐもり》

 《狐の提灯 咲く道をゆき 協議離婚》


◆ 柚木紀子(1933生)東京

 《あふむくや はるおおぞらの うつぶせに》       《春月や いつとき子宮 借りたると》

 《いくへにも 水密桃に くる薄暮》



◆ 山本洋子(1934生)東京

 《花のあと 桃の散るなり 蔵の前》        《人待ちて 春の欅の もたれをり》

 《雪女郎 川越すときに 裾みだれ》


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◆ 岸本マチ子(1934生)群馬県

 《罪深き 肉あぶるなり いまは雨季》       《つっぱって 女をとおす 曼寿沙華》

 《紙ヒコーキ 飛ばして一人 妻の反乱》       《抱かれたき 夜はふかぶかと 羽ひろげ》

 《生傷の 履歴を書いて わが乳房》       《桜鯛 透きとおるもの 抱きにゆく》

 《男来て 海の匂いの シャツを脱ぐ》



◆ 伊藤敬子(1935生)愛知県

 《星座多彩 わが十代の 果てんとす》       《ノラ遠し 久女も遠し 木免(ヅク)の森》

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些事がたいせつ・・・・・岡本 眸・・・・・河野裕子
蝶の骨・・・・・柿本多映・・・・・中田美子
春潮に・・・・・坊城中子・・・・・辻 桃子

伝統俳句の種を蒔く・・・・・今井千鶴子・・・・・加藤あけみ
穏やかにして生・・・・・角川照子・・・・・嶋田真紀
藍の華立ちやまず・・・・・斎藤梅子・・・・・満田春日

具象からのひらめき・・・・・鈴木榮子・・・・・井越芳子
椿子とともに・・・・・千原叡子・・・・・対中いずみ
野茨摘みしのち・・・・・蓬田紀枝子・・・・・津高里永子

大きな門・・・・・星野 椿・・・・・如月真菜
生命の実感をうたう・・・・・金久美智子・・・・・中岡毅雄
自由自在・・・・・稲畑汀子・・・・・長谷川櫂

いのちの輝き・・・・・赤松薫子・・・・・八染藍子
極限の美しさ・・・・・小檜山繁子・・・・・中村和弘
言葉をつなぐ・・・・・加藤耕子・・・・・加藤かな文

さみしいこと・・・・・田邉香代子・・・・・山崎十生
献身という善意に・・・・・永島靖子・・・・・四ツ谷龍
すみれの花に通う風・・・・・三田きえ子・・・・・佐怒賀正美

未来図のその後・・・・・鍵和田柚子・・・・・仲 寒蝉
愛着と放下・・・・・遠山陽子・・・・・釋 好摩
清らかな美の存在・・・・・渡辺恭子・・・・・鞠絵由布子

光りあふ野・・・・・柚木紀子・・・・・高澤晶子
合言葉が降ってきた・・・・・手塚美佐・・・・・谷口麻耶
馥郁たる存問・・・・・山田弘子・・・・・津川絵理子

独自の美的世界・・・・・山本洋子・・・・・谷口智行
いのちの喜びと悲しみ・・・・・岸本マチ子・・・・・小西昭夫
紫の人・・・・・伊藤敬子・・・・・武藤紀子

昭和後期女性俳句年表・・・・・高室有子編