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拾い集め句(川柳) 時実新子(1929 岡山)
2014/03/16
短歌の世界では、与謝野晶子を追って”恋の歌”を詠む人が続いている。
俳句の世界ではどうなのかとネットを検索していたら、この人が見つかった。
http://blog.goo.ne.jp/inemotoyama/e/b93ea1813a6ee8a360e46bdccede7bd6
川柳人“時実新子”逝く 2007-03-13 15:11:14 | Weblog
時実新子が去る10日亡くなった。予想したとおり死因は「肺がん」。
かなりのヘビースモーカーと聞いていたからである。78歳だった。
この人を評する枕言葉は“川柳界の与謝野晶子”。川柳をはじめたのは子ども二人を抱えた二十五歳頃だが、学生時代から短歌をやっていて、ある日短歌の老先生から破門になる。早すぎた結婚で、見果てぬ青春への未練と子育てに消耗する鬱憤を歌にぶつけたのが原因だという。早くから“晶子”流の感性を露わにしていたとみえる。順不同でいくつかあげてみる。
、『有夫恋』は1987年の出版と記憶しています。当時10万部売れた川柳界で唯一のベストセラーでした。
☆ 愛咬やはるかはるかにさくら散る ☆ 妻をころしてゆらりゆらり訪ね来よ
杏咲く自愛極まるわがメンス 寒菊の忍耐という汚ならし
姉妹で母をそしりし海が見え 五月闇生みたい人の子を生まず
☆ 手鉤無用の柔肌なれば窓閉めよ ☆ はぐれるとズキンと乳房だけになる
ふたたびの男女となりぬ春の泥 雪こんこ人妻という手にこんこ
牢屋では夫ごろしが髪を梳く
恐山 石石石石 死死死 ☆ 女の子タオルを絞るやうに拗ね
☆ 良妻で賢母で女史で家にゐず 一筋という道いつも遥かなる
一匹狼友はあれども作らざり 身の底の底に灯がつく冬の酒
凡人に今日の陽あたり有難し 鴉の子わたしは月の泣き黒子
じいさんを刺すばあさんの言葉尻
☆ ちりいそぐむらさきうすきはなあわれ
墨をする如き世紀の闇を見よ 母国掠め盗った国の歴史を復習する大声
手と足をもいだ丸太にしてかへし 屍のいないニュース映画で勇ましい
万歳とあげて行った手を大陸において来た
川柳に詳しい田辺聖子は『川柳でんでん太鼓』(講談社文庫)で新子の川柳をこう評した。
<…性愛を謳うからには気品がもっとも必要であろう。
時折、短歌でも川柳でもあからさまにエロティックな作品を見ることがあるが、
まことにこの分野のテーマはむつかしく、才能と文学観を問われるところがある。…>
はぐれるとズキンと乳房だけになる 手鉤無用の柔肌なれば窓閉めよ
☆ どこまでが夢の白桃ころがりぬ
肉感的な句である。こういう句の受けとりかたは千差万別だが、私は転々する奔放なイメージと、
そこからしたたるエロスの果汁を愛する。天然果汁というべきか。
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1996年8月「月刊川柳大学別冊」時実新子の世界に掲載された「時実新子自選百句」から抄出。
… … … … … … … … … … … … … …
雨の日のダイヤル通じそうで切る どうぞあなたも孤独であってほしい
一念は両手に櫛を持つごとし
わたくしは遊女よ昼の灯を点し
死に顔の美しさなど何としょう 君は日の子われは月の子顔あげよ
いちめんの椿の中に椿落つ
☆ 一つだけ言葉惜しめばまた逢える
鳥籠へ男を返しほうやれほ
☆ 抱かれざる妻のうすむらさきの骨
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1929年生まれ。『有夫恋』がベストセラーとなったのは1987年。1963年の『新子』刊行以来(事実か否かは措いてあまりの迫真性に)不倫を詠んだ川柳ということで不貞川柳などと言われ、誹謗中傷を受けたこともあったとか。「川柳界の与謝野晶子」と呼ばれたということも解る。短歌の中城ふみ子が女の「性」を詠んだ『
乳房喪失』が世間の耳目を驚かせたのは『新子』よりさらに9年を遡る。2007年3月10日死去。
上記10句をいま読んで、(不倫という)内容はともかく、句にインパクトはあるがいささかの陳腐は否めない。有名な、文学碑にもなっている「君は日の子われは月の子顔あげよ」なども、いまとなっては読むほうで腰が引けはしないか。
女の側からの「性」をあからさまに詠んだのはよいが、小道具(?)に「櫛」から「遊女」までもってくるのは、余りにも(女の)「性」を強調し過ぎているために、どこか作りごとめいて感じられなくもない。虚構の、(男が望む)女を演じる女優を見ているような気がする。良くも悪くもエンターテインメント性がベストセラーに繋がったのだろう。
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俳句は「季語」に縛られるので、”恋の歌”には不向きなのだろうか?
季語に囚われない川柳という世界で、女の情念をと言うのが素晴らしい。
「有夫恋」 おっとあるおんなのこい 1987・12 朝日新聞社・刊 ¥1,030
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<背信の汽車 1955〜60) >
☆しあわせを話すと友の瞳(め)が光る ☆晶子曼陀羅子らの寝顔に責められる
☆爪を切る時にも思う人のあり ☆心奪われ阿呆のような日が流れ
☆箸重ねて洗う縁(えにし)をふと思う ☆人は言う簡単に言う邪恋の名
☆慕われているしあわせの髪を梳き ☆柚子しぼる女の生命(いのち)ふと感じ
☆年の差を思う夜道は石ばかり ☆子を寝かせやっと私の私なり
☆孤独ではないけど 海へ石を投げ ☆誰も見ぬ部屋に心をさらけだし
☆熱の舌しびれるように人を恋う ☆われに棲む女をうとむ夜が来る
☆力の限り男をほふる鐘を打つ ☆母で妻で女で人間のわたくし
☆ぬけがらの私が妻という演技 ☆狂う眼はこうか鏡に訊いてみる
☆主婦という名の腕時計何度見る ☆触れ合えば即ち罪となる指の
☆十七の花嫁なりし有夫恋 ☆この家の子を生み柱光らせて
☆たかぶりを人には告げず物を煮る ☆憎いその腕(かいな)の中で敗けてゆく
☆自らを削るほかなき思慕である ☆去ってゆく足に乱れのない憎さ
☆耳の形が思い出せない好きなひと ☆足裏に火を踏む恋のまっしぐら
☆茶碗伏せたように黙っている夫 ☆凶暴な愛がほしいの煙突よ
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<逃亡のアクセル 1961〜65 >
☆恋い成れり四時には四時の汽車が出る ☆五月闇生みたい人の子を生まず
☆放心は隠しおおせし夕の膳 ☆欲望はダリの絵となる部屋を閉ず
☆うつむいて歩くと神の毛臑見え ☆百合みだら五つひらいてみなみだら
☆ねじ伏せる荒き手を待つ夜もありぬ ☆妊りを拒む真深い闇の底
☆風呂に水張って女に野望あり ☆包丁で指切るほどに逢いたいか
☆はずむ日の猫ぎゅっと抱きぎゅっと抱き
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<問わぬ愛 1966〜70>
☆泣いた泣いた沢山泣いたたくあんかじる ☆売らんかな悪女の白い膝がしら
☆夫にもう隠すものなし滅ぶのみ ☆別れの季節今年の蝉は耳朶に鳴く
☆乳房つんつん逢いたくないと言うことも ☆二人共すこしずつ老い時々逢い
☆打ち明けた悔いはなけれどころそうか ☆みんな善人で銃殺刑である
☆花鉢抱いて小さな幸(さち)がいやになる ☆脈うつは九月の肌にして多恨
☆放心も四日におよびとがめられ ☆道しるべあれから狂い幸福です
☆愛もろし卵を割れば傷つく指
☆雨の日のダイヤル通じそうで切る
☆あの人を思いこの人見ています ☆美しい眼だよ悪事を知りつくし
☆滝音よいつまで人の妻ならん ☆恋はうたかたよ湯気立つ栗ごはん
☆花ゆさりゆさりあなたを殺そうか ☆逢うて来て夜の西瓜を真っぷたつ
☆愛から戻り魚を焦がす裏表 ☆菜の花菜の花子供でも産もうかな
☆彼も四十の屈折見せて昼の影 ☆投げられた茶碗を拾う私を拾う
☆火刑待つ すでに独善かもしれぬ ☆女への手紙糊壷たっぷりと
☆乳房つんつん私に背き恋をする
http://amamori.exblog.jp/i43/
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短歌の世界では、与謝野晶子を追って”恋の歌”を詠む人が続いている。
俳句の世界ではどうなのかとネットを検索していたら、この人「時実新子」が見つかった。
この人を評する枕言葉は“川柳界の与謝野晶子”。川柳をはじめたのは子ども二人を抱えた二十五歳頃だが、学生時代から短歌をやっていて、ある日短歌の老先生から破門になる。早すぎた結婚で、見果てぬ青春への未練と子育てに消耗する鬱憤を歌にぶつけたのが原因だという。早くから“晶子”流の感性を露わにしていたとみえる。
☆十七の花嫁なりし有夫恋
☆母で妻で女で人間のわたくし
☆乳房つんつん私に背き恋をする
『有夫恋』(1987年の出版)は当時10万部売れた川柳界で唯一のベストセラー。
(事実か否かは措いてあまりの迫真性に)不倫を詠んだ川柳ということで不貞川柳などと言われ、誹謗中傷を受けたこともあったとか)
詳しくは、読書室に ↓
http://sky.geocities.jp/kitano555_2010/dokusho_2014/708_tokizane.html