長谷川平蔵事件控 神稲小僧
宮城賢秀著 幻冬舎文庫 2000 2007/09/13
家斉の治世。関八州の治安は乱れていた。押し込みに入られた家は皆殺し。
その冷酷きわまりない手口で、神稲小僧
率いる強盗団は全国でも知られていた。
上総国東金宿で火付並盗賊改、長谷川平蔵らがその一味を一網打尽にしたことがきっかけで、平蔵と神稲小僧の凄絶な
戦いがはじまった。
鬼平を新観点から描いた新シリーズ・書下ろし時代小説。
−−秋も、あと十五日で仕舞か・・・・・。
日吉坂を下りる雲水の身形の初老の男が、空を見た。そこは曲がりくねった切り通しの坂であり、空も少ししか見えない。
−−始めるか。 男が托鉢を始めた。経文を唱えながら少し歩いていれば、男は米や銭がもらえる。
ここは上総国山辺郡辺田方村であり、東金町とも称した。
−−やはり、あいつだ。 遠くで、猫又の三次が見ていた。 常陸国の生まれで、三次は棹も艪も操れ、猿のように身が軽く、
逃げ足も速いので捕らえられたことがない。
−−つけてみるか・・・・・。 三次は男が歩き出すや、後を追った。
(三次は長谷川平蔵の手先であり、托鉢僧は神稲小僧の偵察役・藤八であった)
長谷川平蔵は四十四歳、容姿端麗、五尺六寸(170センチ)、十八貫五百匁(70キロ)、一刀流皆伝の腕前で
水泳も得意で健脚である。この時は、上総国にある領地の見回りに来ていた。
長谷川家の家禄は四百石だったが、それに役高を合わせて千五百石高をもらっているので、生活は楽である。
この年(天明八年ー1788)、長谷川は火付並盗賊改を命じられた。
神稲徳次郎は、神稲小僧と呼ばれる盗賊団の頭である。彼の下に数人の小頭、小頭補佐をおき、全員では百三十名を越す
大盗賊団であり、上州を拠点にして東関東一円を荒らしまわっていた。
三十名ほどの集団で狙いをつけた商家に押し入り、男たちや年のいった女は皆殺し、若い女は浚って行き、仲間で輪姦したあと
女郎に売り飛ばすと言う乱暴極まりない手口だった。下っ端の仲間たちには顔を知られないよう用心していたので、
下っ端を捕まえても面を割ることが出来なかった。さらに、浪人者を臨時の用心棒に雇うということもやっていた。
平蔵は、探索を進め神稲小僧一味の押し込み計画を知り、待ち伏せをして一味を捕縛するが、捕まえたのは二、三十名の小グループであり、
頭の神稲徳次郎は安泰、逆に平蔵等への仕返しを企んで来るのだった。
冬の間、上州の山奥に隠れひそんでいた神稲小僧が、雪が解けて秋葉神社横の隠れ家に移り、大宮宿の商家を襲う
という情報を知った平蔵は、大宮宿本陣に手勢を隠し、自らは一隊を率いて秋葉神社の隠れ家を急襲し、神稲徳次郎とその一味
を殲滅する。
さらに頭の死を知らず商家を襲おうとした一味も、平蔵配下の手勢に捕まり、一件落着となる。
◆ 池波正太郎氏の『鬼平犯科帳』 は何冊か読んだ。 この本の作者、宮城憲秀氏も池波氏の犯科帳シリーズを読破し、
氏の死後に独自の鬼平像を作り出し、世に問うたようだ。
しかし池波氏ほどの大作家に迫ることは容易ではない。下手をすれば二番煎じの汚名を着るだけだ。
事実、意欲的?ではあるが、池波氏の熟練の技・作品には遠く及ばないという印象だが、それも止むを得ないことだろう。
読者へのサービスとして、かなりきわどいエロ描写が頻繁に出てくるが、これも好みの問題で、必ずしも成功とは言えないようだ。