刃傷
池波正太郎著 立風書房 1992 2004/8/21

最近、江戸時代の話に興味を持ち、北原亜以子さん、諸田玲子さんの本などを読んでいるが、男性作家の作品も
読んでみようと思い、藤沢周平さんや池波正太郎さんの名前が頭に浮かんだ。
池波正太郎さんの本は初めてなので、図書館で見つけた本の中から、とりあえず一冊を抜き取って読むことにした。
この本には、下の写真のように、9編の短編が収められている。 いくつかを紹介する。

荒木又右衛門
荒木又右衛門という名前は、どこかで聞いて知っている。立川文庫の英雄の一人だったろうか。
これも有名な?仇討ちの話である。
江戸時代の仇討ちには、「敵討ちとは、親の敵、兄の敵を討つべし。弟の敵を兄討つは逆なり」という規則があったそうだ。
又右衛門の妻の実家の渡辺源太夫が、河合又五郎という朋輩に殺された。私闘である。源太夫には、兄の渡辺数馬がいたが、
敵討ちの許可は得られなかった。義兄に当たる又右衛門も同様である。何とかしたいが手が出せない。
河合又五郎は江戸へ逃れ、旗本衆に救いを求めた。
当時は、幕府直轄の旗本衆と大名家とが、対立をしていたらしい。ようやく戦乱(関が原)の世が収まっていたが、
戦の荒い気風は残っており、一方戦場で功名を立てるという望みは消えつつあり、腕を振るう機会を失った武士たちは、
鬱憤晴らしをする場所を求めていた。旗本は徳川に降った大名を軽蔑し、大名の家来は心の中で徳川を快く思っていなかった
という構図だ。
事態を憂慮した幕府は、敵討ちは認めないが、私闘をするのも咎めないという方針に出た。
荒木又右衛門は渡辺数馬を助け、敵討ちを成功させる。
弓の源八
元禄の時代、経世の時代、武よりも文の流行となった。
出雲の国・松江十八万六千石、松平家に 子松源八という 弓の名人が居た。
南部鬼屋敷
塩川八右衛門は剣術の腕を見込まれ、南部藩・山城守重直に家臣として取り立てられた。
後に目付け役に出世し、南部藩の風紀粛清に貢献した。
刃傷
偽の恋文をつかい、目指す男か女のどちらかを誘い出し、それを物陰にかくれて見物するといういたずらを
若者たちがやるのは、むかしからよくあったことだ。
丹後の国・田辺三万五千石の大名・牧野豊前守の家来で、鈴木弥兵衛のむすめ・千代が「付文」を受け取ったのが発端だった。
剣友
明治維新後、大阪府知事となった渡辺昇と、新撰組・近藤勇、沖田総司などとの交遊録。
色
新撰組・土方才蔵の話。新撰組で活躍していた頃、京都のお房という女性と深い中になっていたが、
周囲の誰にも隠していたという。
土方は、五稜郭の戦いに参加し、そこで戦死した。
◆ この本にある話は、まったくのフィクションではなく、史実にある話を核にしたもののようだ。
そうは言っても、細部には著者の想像力による創造が入っているのだろう。
今、大河ドラマは「新撰組」をやっているが、新撰組の人物像を、三谷幸喜さんとは別の角度で知ることが出来て、
それも面白かった。