七人の役小角    夢枕 獏監修   桜桃書房2000   2004/3/08

 この本は夢枕獏氏の監修になるアンソロジーで、七人の作品が集められている。
 テーマは「役小角」。山伏の遠祖として有名で実在したと見られている役小角、しかし その実像は伝説の霧の中にあり、原(同時代)資料に乏しいので、逆に作家の想像力を 発揮できる格好の人物でもある。
 また、その仙人的な超能力ぶりは有名であったらしく中世にたくさんの書物が残されているが、 小角の能力を理想化し、偶像化しすぎている傾向にあるようだ。

 七人の作家は、残された資料の中から正確な実像に迫ろうというもの、想像の翼を広げ 新たな小角像を作ろうとするものなど、様々だ。

  『葛城の王者』  黒岩重吾著
 小角と可憐な娘・山百合とのエピソード。小角はふとしたことで山百合と結ばれるが、 修験者として過ちを犯したと後悔し、二度と山百合と会うまいと思う。

  『役の行者』   司馬遼太郎著
 人間なんて、どこまでいっても芸のないばかげた存在だ。おれはこんなばかげた存在から、 どうあっても脱出せねばならぬ。死ぬんじゃない。生きて脱出する。18歳のオツヌは決めた。

  『役行者の伝説』  藤巻一保著
「続日本紀」の記述から始まり、「役行者本記」(室町時代)、「役行者顛末秘蔵記」(17世紀)、 「役君形生記」(17世紀)、「役公徴業録」(18世紀)、さらに「日本霊異記」「今昔物語」 「三宝絵詞」「私聚百因縁集」に残された役小角の記述を丹念に調べ、その実像を再構成しようと 試みる。

  『邪神戦記』(コミック)   永井豪著
 中学生の小角ゆうは、役小角の子孫であるという設定で、突然悪鬼の襲撃に巻き込まれるという コミック。まったくのフィクションだ。

  『小角伝説』飛鳥霊異記   六道 慧著
 小角と伊吉家の愛生姫とのエピソード。鬼族の夜刀は大海人皇子を操っている。
 夜刀は封印された鬼族の首領・阿修羅を蘇らすために、空蝉の術で愛生姫の血を奪う。
 (これは長編小説の一章を抜粋したもの)

  『役行者と鬼』   志村有弘著  われを見る者は、菩提心を起こす。 わが名を聞く者は、悪を絶つ。
 善を修め、わが説を聴く者は、大知恵を得る。 わが心を知る者は、即身成仏。

  『神変大菩薩伝』   坪内逍遥著
 「女人の情けの有りがたさを知るには季がある。その季を逸したら、再びしがたい。釈尊の 大覚も性の歓びを知られた後であるのに、師はこの肌さえ見まいとてか、いつまでも 瞑目三昧! 存外弱い方なァ! これ、この肌を見ては悟れぬか? この手に触っては 気が散るか?」美女に化した女魔は行者を妖しく誘惑する。