千里眼
松岡圭祐著 小学館文庫 01/5/14
電車の中で気楽に読もうと、裏表紙の説明につられて買ってみた本を紹介しよう。
可憐で心優しい最強のカウンセラー、岬美由紀登場!
横須賀基地から最新鋭のミサイルが突如、都心に向けて発射された。着弾を阻止するには10桁のパスワードを解読しなければならない。
美由紀は解読に取り掛かる。。。
一方、千葉の南房総では巨大な観音像に魅せられる不審な少女の姿があった。その陰には世界を震撼させる「催眠」の罠が
待ち受けていた!
予断を許さぬサスペンス、えも言われぬ爽快感。エンターテインメントの粋を尽くし、ベストセラー街道を独走した大傑作。
キュリー夫人以上、マザーテレサ未満にして、ジャンヌダルク以上、クレオパトラ未満。−−友里佐知子の岬美由紀に対する評価より
「私は命令に従わなければなりません」マセッツはいった。
「それは私もだ」仙道がいいかえしてきた。
マセッツは軍曹に目をやった。軍曹は肩をすくめた。
「いいでしょう」マセッツ少佐はポケットをまさぐった。「あなたか私か、どちらかが上官の命令に背かなければならない。コインで決めましょう」
間髪をいれず、美由紀がいった。「ハーフダラーで」
マセッツはめんくらって聞き返した。「なに?」 「ハーフダラーですよ。五十セント銀貨で」
へんな女だ。ふつうコイントスにはクオーターを使うものだ。ハーフダラーなどふつう持ち歩かない。(中略)
ハーフダラーはケネディの横顔が刻まれたほうが表、鷲がきざまれたほうが裏だ。マセッツ少佐はコインをはじいて空中で回転させ、
左手の甲の上に落下させるや右の手のひらでふせた。たずねるように、友里佐知子のほうをみる。
一瞬の間をおいて、二人の女は同時にいいはなった。「裏」
マセッツは右手をどけた。凍りついた。鷲の姿が光っていた。裏だった。(中略)
「どうしてなんだ。なぜコインの裏表がわかる?」
美由紀は扉をながめたまま、落ち着いた声でいった。
「人間の手は、手の甲より手のひらのほうが敏感です。コインをふせると、手のひらに当たっている面の体温がわずかに局所的に奪われる
用に感じるんです。これは氷や金属など、ひんやりしたものが肌にあたったときに共通してみられる生理現象です。
そのため体温を正常に戻そうとする意思が働き、無意識の内に額にしわが寄るんです。これは寒気を感じたときの条件反射と
ほぼ同じものです。そして、ハーフダラーは裏の鷲の絵は非常に細かく彫りこんであり、表のケネディのほうはほとんど平らです。
だから、凹凸のある裏のほうが手のひらの体温によって温まる速度が速く、1秒から2秒で体温と同じになります。表のほうは
5秒から6秒ほどかかるんです。クオーターや日本円の硬貨では表と裏にそれほど差がないので、適さないんです」
元自衛隊のパイロット、現在は心理学を応用してカウンセラーを務める岬美由紀とその師・友里佐知子、この二人が心理学を
極限まで応用しながら事件の謎解きに向かう。
人の行動や表情に表れる心理学的な特徴をどう読み解くかということが、(学問的に正しいか否かは知らないが)詳しく書かれている。
★ 最後の場面では、美由紀が昔取った杵柄で(自衛隊の)F15イーグル戦闘機に乗って、東京湾上で激しいドッグファイトを繰り広げる
という勇ましいお話。映画にもなったというが、派手なアクションと一見地味な心理学分析が絡み合って面白い。気楽な時間つぶしに最適ですよ。