孟嘗君 (1)-(5)
宮城谷 昌光 著 講談社文庫 00/7/14
「孟嘗君(モウショウクン)は名ばかりが高く、実体の分りにくい人である」と作者の宮城谷さんは後書きに書いている。
中国の戦国時代に活躍した英雄のひとりで、「史記」や「戦国策」などの書物に出てくる人だ。
彼は晩年、魏や秦の宰相となる立派な人物だが、秦王の変心により殺されそうになり、危機一髪の函谷関を食客の機転によって
脱出する話が有名だ。
夜明け前に食客と共に函谷関を脱出しようとし、関守を騙すために「鶏の鳴き声を真似る」話だ。この逸話は日本でも有名で
「夜をこめて とりの虚音を 計るとも 世に 逢坂の 関は 許さじ」(清少納言)
と詠まれている。
物語は、不思議な運命の星のもとにうまれた主人公孟嘗君(田文)の誕生から始り、その生涯を綴っている。
物語に出てくる主な人物は、
田文:のちの孟嘗君 田嬰:斉の威王の弟、田文の実父 白圭:文の育ての親、傑人
隻(セキ)蘭:美少女、後に洛芭(ラクハ)、文の妻 風麗:白圭の妹
孫殯(ソンピン):天才戦略家、孫子

■「公孫鞅の失敗は、その仁義をおろそかにしたところにある。白圭の成功は、おそらく、命がけで仁義をまもってきたことにある。仁義という
言葉は、中華がもちえた最高の理念をあらわしている。それがわかる者が天下を制御してゆくのです」
■孔子は偉かった。
人とはこう生きるべきだという志望を虚空に強烈に描き出したのが孔子である。
「この世で実現できることではありません」
と、世人に笑われようが、孔子は全身全霊でおのれの理想を具現化しようとした。
■白圭の投機は神異であるとさえいわれる。それについて彼は、
「臨機応変の知力に欠け、決断する勇気が足りず、なにを取りなにを与えるべきかという仁の心がなく、守るべきところを
守るという強さがない者が、私の秘訣を学ぼうとしても決して教えない」といっている。
★ この時代は「諸子百家」の時代だが、百家を大別すると十家になり、それは
儒家 道家 陰陽家 法家 名家 墨家 雑家 農家 縦横家 小説家
のことであったという。