ファウンデーション(銀河帝国)・シリーズ
アイザック・アシモフ著 早川書房 00/8/13
アイザック・アシモフの『ファウンデーション(銀河帝国)シリーズ』の第1巻『ファウンデーション』は1951年に上梓され、
最終(第7)巻はアシモフの遺稿を元に1993年に発刊、この間実に42年という長大なシリーズだ。

<銀河帝国興亡史>の中心的アイデアである心理歴史学は、人間集団を統計的に扱う学問です。人間一人一人の行動を予測する
ことは出来ないが、集団が十分な大きさを備えていれば、その社会的、経済的な動向が予測できる。セルダンは銀河系に住む
人類全体を対象として、新しい銀河帝国が勃興するまでの<プラン>をたてます。この<プラン>で最優先とされるのは、あくまでも
人類全体であり、ひとつの銀河系社会です。銀河帝国崩壊後に群小国家が現れては消え、勢力争いを繰り返します。
それぞれが独自の社会や文化をもった集団ですが、心理歴史学にとっては方程式の一項でしかありません。たとえば、シリーズ
第3巻『第2ファウンデーション』の前半をなす「ミュールによる探索」では、仇敵ミュールの目から第2ファウンデーションを
隠すために、惑星タゼンタの何百万人という人たちが犠牲にされました。大の虫を生かすために小の虫を殺す、という発想です。
人類全体の運命や千年単位での歴史の流れというのは、SFならではの視点ですし、そのスケールの大きさが<銀河帝国興亡史>の
読みどころであるのは、間違いありません。しかし、全体のために部分が犠牲になる、人類が個人に優先するという考え方は、果たして
どこまで正当なのでしょうか?
そうした疑問は、シリーズを書き進むうちアシモフの脳裏にも浮かんだはずです。『第2ファウンデーション』の後半「
ファウンデーションによる探索」では、第1ファウンデーションの人々は第2ファウンデーションが自分たちを操っているという
危機感にとらわれます。ここで焦点になっているのは、つきつめれば自由意志の問題です。
そしてこのテーマは、第4巻『ファウンデーションの彼方へ』でふたたび取り上げられます。主人公ゴラン・トレヴァイズは、
超有機体(スーパーオーガニズム)ゲイアから、人類全体の未来を左右する決断を委ねられます。<プラン>は個人を括弧にいれ、自由意志を統計的に無化し、
人類全体を最優先としました。その人類全体の運命が、ここではトレヴァイズという個人の自由意志にかかってくるのです。

『ファウンデーションの彼方へ』では、全体/個人のあり方について、もうひとつ別な方向からの思考実験が試みられています。
惑星全体の生物・無生物が一つの心を共有するゲイアという存在がそれです。ゲイアを銀河全体に拡大させれば、人類統一が
可能となる。<プラン>がめざしたものとは違う形ですが、ある意味ではより完全な秩序の実現です。しかしその秩序は人間個人に
とって、はたして幸福だろうか?その解答を求めるトラヴァイズの旅は、第5巻『ファウンデーションと地球』へと引き継がれます。
このようにして、<銀河帝国興亡史>は、人類という巨視的な発想からスタートして、個人・自由意志の問題へテーマを深化
させていきました。
ーーー以上 牧 真司 氏の解説より



■ ファウンデーション・シリーズ7巻(の邦訳)は次のとおり。
第1巻 『ファウンデーション』 (1951)
第2巻 『ファウンデーション対帝国』 (1952)
第3巻 『第2ファウンデーション』 (1953) (以上3巻はハヤカワ文庫SF)
第4巻 『ファウンデーションの彼方へ』 (1982)
設立以来500年、第2帝国勃興へむけ着実にその歩みを続けるファウンデーションに、いま怖るべき陰謀の影が。。。
第5巻 『ファウンデーションと地球』 (1986)
銀河系の未来への鍵を握るといわれる人類発祥の惑星ー地球を求め、トレヴァイズは、ペロラット、ブリスとともに探索を開始したが。。。
第6巻 『ファウンデーションへの序曲』 (1988)
人類社会の未来を予測する画期的理論、心理歴史学の完成を目指す天才数学者ハリ・セルダンの若き日の活躍を描く。
第7巻 『ファウンデーションの誕生』 (1993)
ファウンデーションの創立に至る激動のドラマを描くこの物語をもって、壮大な宇宙叙事詩は幕を閉じる!